気候変動による大規模自然災害が世界中で多発するなか、 貴重な観測データを世界中の研究機関に提供し続けるため に、ジャムコは新型機への搭載に向け、測定装置の開発 を進めています。2021 年 4 月に立ち上げられた開発グルー プのみなさんに、その取り組みをうかがいました。

 CONTRAIL プロジェクトを担当するジャムコ航空機整備事業部部品整備工場技術開発グループのメンバーのみなさんと CO2 濃度連続測 定装置(CME)。(前列左から近藤部長、遠藤係長、松崎部長)      

―現在、ボーイング787(以下「787」) への搭載のための開発を行っているのですね

松崎 はい。いま CONTRAIL プロジェクトでは日本航空の 定期旅客便・ボーイング777(以下「777」) に ASEとCMEを搭載して大 気中のCO2濃度等を測定しているのですが、この777が 新型機である787へ置き換わっていきますので、継続して観測データを採取できるよう、787搭載用の装置の設計、開発を行っています。試作機は2、3年前からつくっていたのですが、2021年4月にCONTRAILプロジェクトを技術開発室から部品整備工場に移して専門の組織を立ち上げたところです。

近藤 私は、2003年にスタートした777のプロジェクトで開発に携わり、その後はメンテナンスを担当しながら、787の試作機づくり等の場面で、相談を受けたり技術面でアドバイスをしたりしています。

遠藤 777にSTC(追加型式証明)変更があった5 年くらい前からこのプロジェクトに加わりました。いまは787のプロジェクトリーダーとして、装置の設計をしながら、国立環境研究所、日本航空、ボーイングとの各種の調整を行っています。

 

―CONTRAIL プロジェクトの難しいところは何ですか?

松崎 777に比べて、787は要求事項が増え、さらに厳しくなっていますので、それをクリアしていくのが大変です。装置を飛行機に載せるためには数多くの条件があります。温度、高度、電波干渉などの試験項目が増えていますので、すべてに合格するよう設計し、試作機をつくっていかなければならない。おそらく試験項目は 2倍くらいに増えているし、一つひとつの試験時間も長くなっています。

近藤 787は機体のは炭素繊維強化プラスチックですから、電気の影響がどれだけ出るか、コンピュータ制御に影響を及ぼさないかについては厳しいですね。

遠藤 電気関係では、EMI(電磁干渉)が一番難しい。装置が他のシステムに影響を及ぼさないよう装置が発射する 電磁波を一定程度に抑えなければなりませんので、そこが苦労しているところです。

―観測の精度等を高めようとするところと、安全のために他に干渉させないようバランスをとるのが難しいのですねほかに、苦労していることはありますか?

遠藤 以前はボーイングと直接やり取りすることは少なかったのですが、今回はボーイングがFAA(アメリカ連邦航空局)の認証を取ることになっていますので、毎週、デー タを作成し、ボーイングに提出してWeb 会議を行っています。ボーイングの要求を満たすものを毎週出していくのは大変で、いまはエンジニアというより、プロジェクトのマネジメントがメインのようになるときもありますね。

松崎 日本航空にはボーイングとの調整を含め、さまざまなご協⼒をいただきながら対応しています。

近藤 国立環境研究所の研究者の方とは、それぞれの分野の専門⽤語や常識に馴染みがなく、お互いに理解できるようになるまで時間がかかりました。

 

―国立環境研究所さんからも、多くの要求がありますよね?

松崎 やはり研究者として、知りたいこと、調べたいこと はたくさんありますので、多くの要望があります。試作機 が完成した後で設計変更が必要になることもありました。

近藤 技術的にはもちろん設計変更はできますが、それには航空局の承認が必要になります。これについては長年プロジェクトでご一緒していますので、いまでは簡単にはいかないことを研究者の方も理解していただいています 

松崎 プログラムの変更も航空局の承認が必要なので、設定の変更ですむ問題なのか、プログラムの変更が必要なのか検討し、要望に応じて対応するようにしています。

 

 

―787 に搭載するために、今後、どのようなことをやって いかれるのでしょうか?

松崎 今回のプロジェクトの目標は、787搭載用の装置をつくることですが、数多くの試験すべてをクリアして機体に搭載できるものをつくらなければなりません。工程としては、ほぼ設計が終わり、図面を出せるところまできています。ここからまた試作機の製造を始めて、その試作機でさらに試験を行う。試験項目を全部クリアしたら、次は本試験となります。本試験というのはボーイングにレポートを出すための試験です。そしてボーイングでそのレポート内容を精査してパスすれば、FAAに認証申請して審査で問題がなければ納品となるわけです。FAA の認証を取るには申請から3月くらいかかる見込みです。

遠藤 時間的には厳しい目標です。試験項目が多く、一つひとつクリアしていかなければならず、さらに試験に何が出てくるのかわりませんので、試験項目が提示されたら設計変更をしなければなりません。

近藤 ボーイングの確認がどれくらいかかるのかにもよりますし、FAA の審査もコロナ禍による影響が気がかりです。

 

―社会的意義の大きなプロジェクトにかかわることについて、どのように感じますか?

遠藤 このような大きなプロジェクトにかかわること自体、すごく貴重な経験だと思っています。観測装置ですから、直接環境に貢献できるというわけではありませんが、私たちがつくった観測装置から得られたデータによって、CO2の排出削減などの成果が生まれる、そういうところに自分が少しでも役に立てているのだとしたら、本当に嬉しいですし、やりがいを感じます。

近藤 政府は2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言しましたので、このプロジェクトの重要性がさらに高まってくるのではないでしょうか。

松崎 CONTRAIL プロジェクトは世界中の人々の役に立てる仕事です。2011 年の東日本⼤震災で、当社の仙台の機体整備工場が壊滅的な打撃を受けましたが、当時感じたのは世の中から必要とされない企業は生き残れないということ。仙台の機体整備工場は必要としてくれるお客さまがいて、地域の人々もジャムコ頑張れと応援してくれたから復興できました。個人としては、このプロジェクトでその恩返しをしていると考えています。 

近藤 世の中の役に立っていることを感じながら、ずっとこのプロジェクトに携わっていますが、要求事項の高いものを、みんなで知恵を絞ってつくっていくのは、人を育てるうえでも非常に良いので、若い人にはこのプロジェクトをやりたいと手を挙げてもらえたらと思います。

遠藤 これまで携わってきた仕事は機体の改修などが多かったのですが、このプロジェクトは技術者としても面白いですね。社外を含めて多くの人がかかわり、広く社会とつながっていることを実感します。そのなかで、私のミッションは、装置を完成させて787に搭載することですから、そこに向けて精一杯、やっていきたいと思います。

 

CONTRAILプロジェクトとは

地球温暖化をもたらす大気変動のメカニズムを解明するため、産学官が連携する大気観測プロジェクトCONTRAIL(注)。当社は、2003年よりプロジェクトに加わり、自動大気サンプリング装置(ASE)とCO2濃度連続測定装置(CME)の2つの装置を開発し、航空機に搭載するために必要な国土交通省航空局やFAA(米国連邦航空局)のSTC(追加型式証明)の認証を取得してきました。STCの取得により、これらの観測装置は日本航空株式会社が定期旅客便で運航する777-200ERや777-300ERに搭載され、地球規模で大気の観測データを採取しています。その解析結果は地球温暖化に関する研究のための貴重なデータとして国立研究開発法人国立環境研究所から世界中に配信され、活用されています。

注:CONTRAILとはComprehensive Observation Network For TRace gases by AIrLinerの略で、この名称は2007年より使用しています。

※ CONTRAILプロジェクトは、環境省の委託事業の成果として/支援を受けて(定常)観測が行われています。