航空機による大気観測プロジェクト「CONTRAIL」

10年間の観測で得られたデータを解析し、世界34都市上空のCO2濃度変動を明らかに

梅澤拓研究員
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梅澤拓研究員

この度、地球温暖化の原因であるCO₂の濃度分布を調べるCONTRAILプロジェクトの研究者が、プロジェクトで得られた約10年間の観測データを解析することによって世界34都市上空のCO₂濃度の状況を明らかにし、その成果を論文にまとめ、専門誌に発表しました。

「Statistical characterization of urban CO₂ emission signals observed by commercial airliner measurements」と題するその論文は、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国環研」)の梅澤拓主任研究員(環境計測研究センター)が筆頭著者となり、自然科学分野の学術誌「Scientific Reports」に発表されたもので、航空機ならではの鉛直方向の観測と就航先空港周辺で定期的に採取される高精度のCO₂データ解析から見えてきた非常に興味深い内容となっています。

今般、CONTRAILプロジェクトのリーダーである国環研地球環境研センター大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長にご配慮いただき、梅澤研究員との対談が実現しました。対談は、つくば市の国環研において町田室長に同席いただいて行い、対談のあとは研究室も見学させていただきました。対談では雑談を交え気さくにお話いただき、論文の内容についての質問や、当社が今後どのようにプロジェクトに関わり、協力できるのかなど、思うところをお聞きすることができました。

 

                 CSR推進課が行く!!

~国立環境研究所編~

インタビュアー

この度は“大気観測に関わる論文”の発表、誠におめでとうございます。(環境研プレスリリースを見ながら)当社でのCSR活動の取り組みとしてCONTRAILプロジェクトを取り上げていることから、是非ともインタビューさせていただきたくお邪魔しました。本日は宜しくお願い致します。

早速ですが、今回の論文では日本航空㈱(以下「JAL」)が就航している36の空港、34の都市について調べられておりますが、もしいろいろな制約がなければ、今後観測してみたい地域などはありますか。

 

梅澤研究員:

アフリカ、シベリア、南米などで観測してみたいですね。これらの地域では観測網もありませんし、社会基盤の脆弱な地域では、現場での地上観測は難しいですので、旅客機による観測は非常に有効だと思います。空港はいろいろなところにありますが、現在観測できていないのが残念です

ただ、CONTRAILがアジアに強いというのは大きな強みになっています。欧米の機関はやはり欧米での観測データが中心であり、アジアまで観測範囲を拡げられていません。CONTRAILの観測がCO₂排出量の増えている中国、インド、東南アジアの国々をカバーしているというのは、とても重要なことです。

インタビュアー:

世界各国の空港上空におけるCO₂増分の変動幅と人為起源CO₂排出量との関係のグラフを見ると、上海、北京、羽田、成田、仁川・・・と、アジア地域の排出量が多く、それに比べると欧米の大都市の排出量がとても低いようですが、都市の規模としては欧米の方が大きいように思うのですが。

梅澤研究員:

都市の人口で見ても、ほぼ同じ順に並んでいます。排出量という観点で見ると、やはり人口が大きく関係しているものと思います。論文のSupplementary materialに空港周辺の図がありますが、ピンク色の部分が大都市圏を表しています。これを見ても東京などは欧米の大都市より地理的な規模としても大きいのがわかります。36都市分の図がありますのでそれを見るととても面白いですよ。

インタビュアー:

   風向、風速とCO₂濃度の分布の関係を表した図がありますが。

 

梅澤研究員:

例えば成田の場合、高いCO₂ 濃度が現れるのは弱い西風の時が多いということがわかります。風が弱いときに濃度が高くなるというのは、そのとき都市の上をゆっくり風が流れているということで、そこで排出されたCO₂ をたくさん溜め込んでいるということを意味しています。風向が多少ばらつくのですが、それは飛行経路により観測地点にもばらつきがあるためです。定点観測ではなく動きながらの観測であるので、どのようにデータを見るかというのが今回の研究のポイントですね。

インタビュアー:

この研究で使っている風向、風速は、当社で開発や航空機への搭載に携わった大気観測装置に記録されているデータを利用しているのですか。

 

梅澤研究員:

そうです。大気観測装置に記録されているCO₂濃度と位置情報だけを使用した研究が多かったのですが、風向、風速を使用した研究は、これが初めてです。

インタビュアー:

風向、風速も重要なデータであるということがわかりましたが、そのほかに重要なデータはありますか。

梅澤研究員:

気象情報としては外気温のデータを重要視しています。地球上の大気は上空2~3kmを境に性質が大きく変わりますが、この境目がどの高度にあるかを外気温の分布で判断できます。簡単に言うと、地上付近の大気境界層では地上からのCO₂排出の影響を大きく受けます。どのデータが大気境界層のデータなのかを判断するためにも外気温はとても大事です。気温と風の情報を同時に取得することは非常に意味のあることなのです。私たちの分野では大気化学輸送モデルといってシミュレーションをするのですが、そのモデルがどれだけ正確か、ということを見極めるためにも実際の風や気温の観測がとても重要です。

インタビュアー:

正直なところ、今まで観測データを見るときに、風向、風速、気温などはデータセットの後ろの方にあってあまり気にすることはありませんでした。これはCONTRAILプロジェクトチームの他のメンバーも同じではないかと感じます。研究所の先生方から「このパラメータの観測が必要」というお話しはよく伺いますが、研究結果に直接的に現れていることを知ると、またあらためてその大切さを実感できます。

ところでCONTRAILプロジェクトで観測したデータは公開されていると伺っていますが?   

梅澤研究員:

はい、世界中に公開しています。CONTRAILプロジェクトのデータを利用した論文も国内外から発表されています。今まではCO2濃度のデータしか公開できていませんでしたが、今後は外気温や風速、風向も公開する予定です。

インタビュアー:

CONTRAILプロジェクトは研究所と民間企業が協力して推進しているプロジェクトですが、どのように感じておられますか。

町田室長:

今、国は官民共同というものを推進していますがなかなか進んでいないと感じています。民間企業側にメリットがある分野では昔から実績がありますが、逆に民間企業が儲からない分野はなかなか進んでいないのが現状だと思います。ただ昨今のCSR重視の流れが産官プロジェクトを後押ししているように感じています。民間企業の得意分野が活かせるプロジェクトに参画することで、「社会貢献」「環境貢献」に繋がるからです。このCONTRAILのようなプロジェクトは、大学や研究所だけではどうにもならない規模なので、民間のJALさんやジャムコさんが、お金儲けにはならないがCSRにつながるということで参加してくれていることに大変感謝しています。今後はESG投資が企業の価値観を測る指標になっていくのだと思います。

インタビュアー:

当社もCSR活動の重要性を認識しており、積極的に展開しています。今回のインタビューもそのCSR活動を紹介する活動のひとつです。

本日はお忙しいところお時間を割いていただき、ありがとうございました。インタビューは今回にとどまらずシリーズ化も目論んでいますので、引き続きどうぞよろしくおねがいします(笑)。

梅澤研究員:

インタビューの度に新しい論文を発表できるかお約束はできませんが(笑)。またよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

梅澤研究員と町田室長 <br/>ジャムコ製CMEを挟んで<br/>
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梅澤研究員と町田室長
ジャムコ製CMEを挟んで
試験室に並ぶ 標準ガスボトル
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試験室に並ぶ 標準ガスボトル

       

環境研(和文):http://www.nies.go.jp/whatsnew/20200515-2/20200515-2.html

環境研(英文):http://www.nies.go.jp/whatsnew/20200515-2/20200515-2-e.html

EurekAlert!(英文、環境研より投稿):https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-05/nife-cam051220.php

研究論文の共著者の所属である米国USRA(Universities Space Research Association)からも発表が行われました。

https://newsroom.usra.edu/commercial-airliners-monitoring-carbon-dioxide-emissions-from-cities-worldwide/

CONTRAILプロジェクトとは

地球温暖化をもたらす大気変動のメカニズムを解明するため、産学官が連携する大気観測プロジェクトCONTRAIL(注)。

当社は、2003年よりプロジェクトに加わり、自動大気サンプリング装置(ASE)と二酸化炭素濃度連続測定装置(CME)という2つの装置を開発し、航空機に搭載するために必要な国土交通省航空局やFAA(米国連邦航空局)のSTC(追加型式証明)の認証を取得してきました。STCの取得により、これらの観測装置は日本航空株式会社が定期旅客便で運航するボーイング777-200ERや777-300ERに取り付けられ、地球規模で大気の観測データを採取しています。又、その解析結果は地球温暖化に関する研究のための貴重なデータとして国立研究開発法人国立環境研究所から世界中に配信され、活用されています。

注:CONTRAILとはComprehensive Observation Network For TRace gases by AIrLinerの略で、この名称は2007年より使用しています。

大気中の温室効果ガスを立体的に観測

地球温暖化の原因となる、温室効果ガスの広範囲な観測を目的とした「CONTRAILプロジェクト」。大気中のどこにどのような濃度で、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが分布しているかを精密に観測するためには、地上からだけではなく、航空機を利用して三次元的に観測することがとても重要です。プロジェクト開始以前は、シベリア上空など一部の地域においてチャーター航空機を用いた観測が実施されていましたが、毎日世界の空を飛んでいる民間航空機で観測できれば、より頻繁に、精密なデータを収集することができます。又、地球規模で世界各地の観測ができること、地表から上空まで高さの違いなど、空間的に詳細な温室効果ガスの分布を調べることができることなど、画期的なメリットがあります。

航空業界のプロフェッショナルとしてプロジェクトの継続を⽀える

地球温暖化研究のための大気観測は、1993年より、気象研究所、日本航空、日航財団(現在のJAL財団)がオーストラリア-成田間の航路で、ボーイング747-200型機にタイマーで大気を収集するフラスコサンプリング装置を搭載して、観測を実施してきました。しかし、搭載機の退役に伴い、2002年頃、新しい大気観測装置を搭載することが検討されていました。

そして2003年には、国立環境研究所、気象研究所、東北大学、宇宙航空研究開発機構、日本航空インターナショナル(現在の日本航空)、日航財団、当社をメンバーとする産学官連携の新たな共同研究プロジェクトが発足。当社はASE(自動大気サンプリング装置)、CME(二酸化炭素連続測定装置)の2種類の新しい大気観測装置を開発すること、及び装置を航空機に搭載するための当局承認を取得することを担当しました。これらの新しい装置による観測活動は、2005年から「CONTRAILプロジェクト」(プロジェクト名称の使用は2007年から)として現在に至っています。

航空業界のプロフェッショナルとして大気観測の継続を支えていくことが、このプロジェクトにおける当社の使命です。観測が始まって以来、装置を搭載していた航空機の退役や航路変更により、新たな航空機に搭載するための改修や、観測装置の機能を向上させる改修などを当社が実施してきました。観測開始から10年以上を経て、今後の10年も継続して観測ができるよう、入手が困難な内部部品に対し代替部品の使用を可能にするための改修をはじめ、新たな観測装置の開発や新たな機体への搭載についての研究など、プロジェクトの継続と発展に向けた取り組みを続けています。

CME(二酸化炭素連続測定装置)
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CME(二酸化炭素連続測定装置)
ASE(自動大気サンプリング装置)
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ASE(自動大気サンプリング装置)
ASEの搭載前整備
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ASEの搭載前整備

観測結果は貴重なデータとして世界で活用

ASEは、あらかじめプログラミングした12地点の大気を自動で収集して地上に持ち帰ることができ、国立環境研究所で、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、六フッ化硫黄、一酸化炭素、水素の濃度を分析しています。これらの観測データは1993年から始めた旧ASE観測を含めると、南北両半球の温室効果ガスの緯度分布について、長期間にわたる継続した観測として世界最長の記録です。又、CMEは航空機の上昇中、巡航中、降下中に二酸化炭素濃度を連続して高精度で測定・記録することができます。

このような温室効果ガスの濃度を、地球規模で高頻度に測定し、データを蓄積するプロジェクトは世界でも初めての試みです。長年の観測による貴重なデータは、現在、国立環境研究所を通じて世界中の研究者に提供されており、そのデータを活用した研究成果は数多くの学術論文や学会発表の形で全世界に発信されています。

今後も、安定的な観測をバックアップすることを通じて、地球温暖化研究に貢献し続けていきます。

関連ニュース(研究成果・受賞暦等)

・2020年5月 CONTRAILプロジェクトのデータを用いた研究論文を

 国立環境研究所の梅澤研究員が発表

・2019年3月 CONTRAILプロジェクトが 第1回 日本イノベーション

 大賞「環境大臣賞」 受賞

・2017年12月 CONTRAILプロジェクトが地球温暖化防止活動環境

 大臣賞「国際貢献部門」受賞

・2016年12月 CONTRAILプロジェクトから明らかになった研究成果

 を発表

・2015年5月 「CONTRAIL」が地球環境大賞において特別賞を受賞

・2014年11月 大気観測プロジェクトが、ボーイングのecoDemonstrator787 フライトテストに参加

・2013年10月 大気観測プロジェクトCONTRAILが日韓国際環境書賞を受賞

・2013年6月 大気観測プロジェクトCONTRAILが環境賞において優秀賞・環境大臣賞を受賞

・2012年7月 航空機による大気観測プロジェクト特別塗装機のフライト開始

・2007年6月 新大気観測装置の開発を担当した弊社後藤啓太が航空技術協会会長賞を受賞

 関連サイト

>国⽴環境研究所 CONTRAILプロジェクトのウェブサイト(英語)

>JAL CONTRAILプロジェクト紹介ページ