大手2社の寡占市場。シート業界は長くそう呼ばれてきました。また、初期参入コストの高さ、研究コストの肥大化により、非常に高い参入障壁が存在しています。ジャムコは、あるシートメーカーの品質問題の対応を契機に、シート業界へ挑戦します。

空の旅に特別な価値を演出するシートを

ビジネスクラスとファーストクラスは機内でも特別な空間です。

世界のエグゼクティブが満足する快適さと高級感を備え、空の旅にプレミアムな時間を演出するものでなくてはなりません。

そこで用いられる高級シートはまさにその主役ともいうべき存在ですから、各航空会社はそれぞれのブランドイメージを体現するため、シートへの要求条件を非常に高く設定しています。

安全性や耐久性が高レベルで確保されているのは勿論のこと、デザイン、素材、座り心地、使いやすさからギャザー(革シートのシワ)の寄せ方に至るまで、エアラインそれぞれのこだわりが集中するプロダクトなのです。

それだけに簡単に作れるものではないうえ、技術の進歩に伴ってしばしばアップデートされる厳しい型式証明規則への対応、大きくならざるを得ない開発費など、メーカーとしての新規参入は難しい分野と言えるでしょう。

新規参入への道

1970年にボーイング727、737のギャレーを受注したのを皮切りに、40年以上にわたって大型航空機用の各種内装品を手掛けてきた当社ですが、高級シートに関してはなかなか参入の機会がありませんでした。

状況に変化がみられたのは、ハイクラスのエアラインとして知られるシンガポール航空から急ぎの案件を打診されたことがきっかけです。

品質問題を起こした他社製品の代理開発でしたが、これを短期間で納入したことが認められて同社の高級シートの入札に参加することができるようになります。

高級シート業界はアメリカのB/Eエアロスペースとフランスのゾディアックエアロスペースの巨大企業2社による寡占状態ですが、そのためにシートメーカー側の売り手市場となっており、航空機メーカーやエアライン各社の要望を満し切れないケースも生じていたのです。

そうした中、競合の末にボーイング777新造機分のプレミアムシート(シンガポール航空)の受注に成功した当社は、製品に対する高い評価をいただくとともに、寡占市場に新規参入したこと自体に対しても航空業界から歓迎を受けることになりました。

航空機内装の総合メーカーとして

シート事業が新たに加わったことで、旅客機の主要内装品の全てを設計・製造できる体制が整ったことになり、今まで受託できなかった総合的な案件にも対応できるようになったのは、右肩上がりで伸びている旅客機市場を見据えた際に大きなアドバンテージです。

新造機の生産が増えているということは、それらが年数を経た際の内装改修需要も確実に増えるということです。

今後はエアラインから一機丸ごとの内装改修を引き受けていくことも可能になるでしょう。

企業規模だけを見れば前述の大手2社より小さな当社ですが、主力のラバトリーやギャレーでは既に優位に立っています。

これは品質の高さと正確な納期によるもので、事業の新たな柱であるシート分野でも同じことです。

新たに稼働させた専用工場における一層高度なエンジニアリング能力の研鑽、製造コストを下げるための専門組織の立ち上げなど、着実にシェアを広げるための方策を積み上げ、今後も航空機業界での存在感を強めていきます。