

私は2023年4月にジャムコに入社し、このたび2024年6月に代表取締役社長を拝命いたしました。
ジャムコは私のこれまでの職歴にも共通する、「3つの良さ」を有しています。一つ目は開発から生産、販売、アフターサービスに至るまで、自社で一貫した対応ができる技術と体制を持っていること。二つ目は低価格路線を採らず、しっかりした良い製品をつくり、その価値をお客さまに認めていただいた上でふさわしい対価を得ていること。最後はグローバル市場において優れた製品とサービスが評価され、一定のリーダー的地位を確立していることです。無論、経営上の課題はありますが、成長の余地も大いにあるという印象を受けました。
入社してから約1年の間に業務改革を担当しつつ社内の課題と向き合うなかで、航空業界におけるサステナビリティについて自分なりに考える時間がありました。そこで感じたのは、航空業界は特にサステナビリティに対する感度が高いということです。近年、ジェット機の二酸化炭素排出量が注目されるようになって旅客の関心が高
まり、それが航空会社の関心事となり、さらに航空機メーカーの最重要課題へと波及しています。航空会社と航空機メーカーは当社の主要顧客であり、いまや当社にとって、サステナビリティは事業に直結する不可欠な要素であるとあらためて認識しています。
当社の主力事業である航空機内装品の分野に関しては、まずは元来求められてきた安全性や耐久性の基準を満たす必要があります。そのうえで軽量化などの環境対応技術に磨きをかけ、優位性を発揮することが事業拡大につながり、サステナビリティに貢献できると考えています。その一つが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の積極的な採用です。より軽量化したギャレー(厨房設備)、ラバトリー(化粧室)、シート等を提供することで、フライトに必要な燃料が減るとともに、耐久性に優れた製品を長く使うことで、二酸化炭素の排出量削減につながります。また、CFRPのリサイクルにも取り組み、当社と名古屋大学等による共同研究が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2023年度登録テーマとして採択されました。さらにJAXAと共同で、「誰にも寄り添うトイレ」を目指して、インクルーシブな「バリアフリートイレ(ラバトリー)」の研究開発にも取り組んでいます。
当社では、こうした次世代製品や中・長期的な視野に立った革新的技術の開発、さらにジャムコの技術開発の根幹を支える人財育成に取り組むため、従来の「技術・イノベーション統括部」の機能を拡大強化し、2024年4月に「技術イノベーションセンター」へと組織改編を行ないました。
事業を通じてサステナビリティに貢献するためには、会社が健全に機能し、サステナビリティに十分配慮できることが前提となりますが、現在は厳しい事業環境にあると言わざるを得ません。COVID-19による移動制限は航空業界に甚大な影響を与え、その後のエンジニア等の人財不足や財務状況の回復の遅れなど、いまだ完全な復調には至っていません。
中期経営計画では、選択と集中による収益力向上と財務基盤強化を優先課題に掲げ、シート事業における新規開発凍結や、内装品子会社や事業部の統合など、会社を健全な状態へ導くための方策を採っています。
現在の事業のなかでも着実な収益が見込める分野に、限られたリソースを投入して少しずつ事業基盤を回復させる。そして基盤が強化され余力が生まれた時点で、リソースの投入分野を広げつつ、環境対応技術などで優位性を発揮してサステナビリティにも貢献する。このような段階を踏んで、経営資源のシフトを進めたいと考えています。
企業経営にあたり、経営者の役割は「決めること」「変えること」「儲かる文化をつくること」の3つであると考え、社内にも伝えています。このうち「決める」「変える」は私自身が行なって見せるわけですが、「儲かる文化をつくる」は一言では伝わらないので、さまざまな機会を通して社員に感じとってもらいたいと思っています。
儲かる会社には、いくつかのbehavior(行動様式)があります。その一つが“Bad News Fast”(悪い知らせは早く)です。なぜなら、悪い知らせというのは、この会社を良くするための有用な情報でありチャンスだからです。このような具体例を示しながら、「儲かる文化」を順次社内に浸透させたいと考えています。

人財活用の観点から能力開発、福利厚生分野への注力が有効であることはもちろんですが、その一方で、私は企業と社員の関係を、より原点に近い姿でイメージしています。それは「社員のがんばりが自社の成長につながり、賃金等を通じて還元されるサイクル」が、きちんと機能しているか、という点です。近年の議論では、この大事な部分への言及が少ない印象ですが、社員の働きがいを考える時、私は不可欠な視点ではないかと思っています。
当社は2024年度に「くるみん認定」を取得するなど、社員が安心して仕事に専念できる環境づくりを目指していますが、個人的にはさきほどの、社員へ還元する好循環を続けていくことこそが、サステナビリティの重要な要素であると考えており、今後も重視していきたいと思います。
当社がこれまで市場で確固たるポジションを確立してきたのは、良い物をつくり続けてきた良い人がいたからです。「良い製品をつくる、良い人がいる。それがこの会社の財産なんだ」と、入社してすぐに気付きました。こうした社員に対して、さらなる意欲向上と生きがいを感じられるような企業風土の構築に務めたいと考えています。
さきほども述べましたが、当社の強みは価格追求ではなく、良い物をつくり、その価値をお客さまに分かっていただいてふさわしい対価を得てきたことであり、これは製品のみならずサービスでも同様です。
当社の内装品事業は海外の顧客が多く、かつサステナビリティ分野で先行するEUの企業が多数含まれています。そういった顧客企業から、軽量化や耐久性といったサステナビリティにつながる性能において、当社はすでに一定の評価を得ていることは、非常に重要な点であると思います。
これからも、サステナビリティに敏感な航空業界において、当社の強みであるサステナブル経営を推進することで企業としてさらなる成長を図るとともに、快適で持続可能な社会の実現に貢献していきます。
ステークホルダーの皆さまには、今後とも引き続きご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。