火を使えない機内で料理をせずに温かい食事を準備するためには?
旅客機時代が幕を開けた頃、機内で食べることができたのは冷たいサンドイッチと、魔法瓶で保温されたコーヒーくらいでした。温かいメニューが楽しめるようになったのは1950年代後半からのことです。
限られたスペースしかなく、火も使えず、揺れる機内で温かい食事を用意するのは非常に困難だったということの証ですが、今や空の旅の大きな楽しみになるほど、機内食は温かく、美味しく、豊かになりました。
ところがこの料理、実は機内で作られているわけではありません。
機内食は専門のケータリング会社が地上で調理し、保冷能力のある専用カートに収めて機内のギャレーに運び込まれます。
客室乗務員は食事の時間が近付くと温める料理はオーブンで加熱し、カートで冷やしてきたフレッシュな料理と一緒に客席に運んで配膳するという流れです。
つまりギャレーは調理場所ではなく、料理を保冷し、配膳の準備を行い、食後の片付けなどを行う場所なのです。
150kgのカートがゆらゆら、ガタガタ・・・
飛行機のギャレーはアフリカ象5頭分の荷重に耐える特殊なプロダクト!
飛行機は前後左右に傾きますし、乱気流やエアポケットによって機内に大きな力がかかることもあります。
料理を満載したカートの重さは最大150kg程度になりますので、それらが飛び出したりしないよう、カートを収納するギャレーは十分な強度で設計されています。
設計時の要求仕様では、万が一の胴体着陸時の衝撃まで考慮して9Gの荷重に耐えることが義務付けられているのですが、これはギャレー自体の重量と、満載状態のカートの重量をすべて含めた状態が基準になりますので、ボーイング787搭載のギャレーを例にとると、35トン以上の荷重に耐える必要がある計算です。
つまりそのギャレーは、アフリカ象が5頭ぶら下がっても壊れない強度を持っていることになります。
しかも、用途が航空機用なだけに、ただ頑丈に作れば良いというわけではありません。
航空機において重量増加は性能低下に直結しますので、できるだけ軽く作る必要がありますし、万が一の火災時にも延焼しにくい、煙が出にくい、有害ガスが発生しないことも絶対条件です。
そうした数々の厳しい条件を満たしたうえで、各航空会社のこだわりを最大限に反映した使い勝手とデザインが盛り込まれています。
航空機のギャレーはいわゆるキッチンとはまるで異なった、非常に特殊なプロダクトなのです。